2022年12月7日

巨大企業現役経営者お二人の使命感

巨大企業現役経営者お二人の使命感

~第136回(2022.7)全国経営者大会の感想③-1~

今夏の全国経営者大会では、日本を代表する超巨大企業の現役の経営者お二人、
川崎重工の橋本康彦社長とNTTの澤田純会長のご講演がありました。
お二人からは、大きな転換期にあるビジネス環境のお話と、
それを踏まえた自社の今後の方向や実際に進めている主な戦略・施策についてのお話を伺いました。
とても中身の濃い内容でしたが、そのフラットで冷静なお話しぶりの中に、
自ら日本の未来を拓いていく経営者としての熱き使命感をひしひしと感じることができ、
とても勇気づけられました。

講演の感想1

講演タイトル
「激動期を乗り越える社長の決断とリーダーシップ」
【川崎重工業 橋本康彦社長】


橋本社長は、本質的なことにこだわりながら柔軟に物事を進めるタイプで、
論理的でメカニカルなことに強く、かつ高い発想力をお持ちの方との印象を持ちました。

各論的な部分もてんこ盛りで、お話のスピードも速かったため、私の頭が付いていけていない部分もありましたが、
最新のメタバースやAIについて、ビジネス上での実践的な考え方や活用方向をリアルな事例をもって解説していただき、
とても勉強になりました。
実はその後の日経ビジネス(7月25日号)の特集で橋本社長が紹介されており、
川崎重工業では全くの傍流だったロボット事業を、
6年で3億から100億にして軌道に乗せた異端児だった、とのことです。

そんな橋本社長ですが、ご自身の成果を誇ることは全くなく、
次の時代の次の技術の進展を見据えたさまざまな取り組みについてお話いただきました。

講演内容について

川崎重工業では、『次の社会へ、信頼の答えを』と言うキャッチフレーズを掲げ、社長直轄プロジェクトを立ち上げ、
200人が集まって様々なプロジェクトを推進しているそうです。
例えば、「ロボットとAIとIoT」の組み合わせ。
精密に動くロボットやセンサーと、人工知能、そしてビックデータおよびクラウドを組み合わせて、
仮想現実と現実の世界をシームレスに行き来できるようにする。

具体的には今までは人が直接その場でしか出来なかった高度な技能対応を仮想現実の技術を使って、
遠隔操作によって人の代わりにロボットで代替することが考えられるそうです。遠隔医療や遠隔製造、自動走行による遠隔物流等々。
例えば、物流倉庫のピッキングでは、自動ロボットでもピッキングできないケースが発生した場合、
遠隔で人が現場の画面を見ながら直接操作して取るようにする。
そしてその状況と操作方法をロボットに自動的に学習させて、次からは自動化して取れるようにする、と言ったお話がありました。
実際の現場的な話であり、とても勉強になりました。
こうしたことが出来るためには、ロボットが周囲の環境全体をしっかり認識して動けることが大前提になり、
そのためにはデジタル化した仮想空間を想定することが必要になります。
一方でイレギュラーな事項が発生した場合、リアルな現場での人間的な判断が必要になることもありえます。
そのつなぎをどうするか、その答えの一つかなと思いました。
この話は、著名な経営学者の野中郁次郎先生の「暗黙知の形式知化」の実践例だなと思えた次第です。
この仮想空間の技術と精密ロボットの技術、そして遠隔操作の技術を組み合わせた世界を「インダストリー・メタバース」と言うようです。
こうした開発は自社だけでは到底難しいため、メタバースに関連したことでは、
マイクロソフトやその他外部企業と提携して進めているとのことでした。

それで後から思えたことですが・・こうやってお話をお聞きすると、今後単純作業だけでなく職人的な「すり合わせ能力や調整能力」も、
どんどん機械に代替されてくることが予測できます。
これまでの職人技が従来のようには必要でなくなり職人の絶対数は激減するでしょう。
しかしそうなればなるほど社会的にもビジネス的にも、
人間をどう活かすか、人間的な強みをよりどう発揮させていくのかが大きな課題として、強く問われてくると思います。
人間を排除する技術ではなく、
人間を幸せにする技術、人間の職人的な強みをより発揮させるための技術と言う発想が今後より大事になってくると思えました。
中小企業の場合、そちらの方がよりチャンスがあるようにも思えます。

それから「カーボンニュートラル」ということでは、海外から水素を効率的に運ぶための巨大運搬船の開発のお話もびっくりでした。


その大きさが今までの数倍の規模を想定していて、
最終的な水素の価格を現在の170円から、2050年には18円にすることを目指しているそうです。
水素自動車は、従来のガソリン車の技術をかなりの部分使えるため、
これまでの日本の技術を活かせるのが、水素にこだわる大きな理由の一つとのことです。
その他のお話もあったのですが、何れの対策も自社の根源的な強みを意識しながら、
「社会的な課題解決」という目的をはっきり見定めて、
その目的をしっかり踏まえた進め方をされていることが、ご説明からよくわかりました。

講演の感想2

講演タイトル
「分断の時代を超えて」
【NTT 澤田純会長】

澤田会長の場合、深い教養を持たれており、
その教養からくる哲学を指針にして実際の経営を進めておられるよう思います。
ご講演も5年10年ではなく、数百年から千年単位のお話から始まっており、内容も思想哲学や生物学まで、
その高い見識をフルに発揮されたお話になっていたよう思います。

講演内容について

はじめは「歴史に見る日本」ということで、16世紀の支倉常長の天正遣欧使節のお話からはじまりました。
その経路はアメリカ、メキシコを経由し、そしてローマへということで、当時は大変な冒険であったようです。
また江戸時代も鎖国されていたわけではなく、実際は外国との貿易はかなりされていたとのこと。
一方で日本が西欧と違って循環型社会として繁栄していたことは注目すべきとおっしゃっていました。
そこからの結論として、今後の日本も日本の基本となる強みを活かしながら、内に籠る
ではなく、冒険心をもって、外国とのより深い交流が大事と言う主旨のお話がありました。
次に「翻って現在」のお話に入り、これまでのグローバル一辺倒から国家間の分断が起こっており、
日本の安全保障については、食料や燃料なども含めた産業全体として考える必要が出てきている。
また「今までの一極集中からの転換→地方創生/分散型社会の形成」が大事で、
そのためNTTとしても、水産・農業・食料・生活インフラ・芸術などにかかわる様々な施策を進めている、とのことです。
お話の中でそれぞれの実例が紹介され、NTTがそんなところまでやっているのか、と初めて知りました。
一方で、「これからの企業経営」としては、二元論の一つだけの答えではなく、グローバル
とローカル、攻めと守り、集中と分散、多様性と包摂、といった両面を考えた経営が必要とのことです。
光が波と量子の両方の性質を持っているように、物事を一面だけで見ずに、融合した世界としてあらためて捉え直す、と言ったお話でした。

また「我々は自然の一部で、自然は利他的な存在である。
我々は倫理的なもので活動すべき。
自分の幸せと他者の幸せを両立させる。」
とおっしゃっており、(宗教家や道徳家ではなく)NTTの会長のお言葉として、とてもジーンとくるものがありました。
※後で調べたら「NTTグループサステナビリティ憲章」の考え方のようです。

そして最後に、吉田松陰の言葉として


「夢なき者に理想なし
理想なき者に計画なし
計画なき者に実行なし
実行なき者に成功なし
故に、夢なき者に成功なし」を挙げていました。
トップ経営者自らが自らに向かって語ることに、何より価値がある言葉と思いました。
日本を代表する企業の経営者の言葉として、とても元気づけられました。

後編へ続く

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

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