2023年9月5日

業績好調のベンチャー女性社長が劇的に組織文化を改革した手法(後編)

業績好調のベンチャー女性社長が、超真っ暗な社内アンケート結果にショック。
劇的に組織文化を改革した手法とは!

~第138回(2023.7)全国経営者大会の感想①-2~
(前編はこちら

◎岩崎裕美子氏の講演

惨憺たるアンケート結果

創業7年目、業績は右肩上がりで年商50億円を超え、外部から見たら絶好調の会社に見えたはずですが、
岩崎社長によると、社内が“暗黒時代”で、とんでもないことになっていたそうです。
その当時、社内アンケートを取ったら、次のような結果だったそうです。

●経営層は言うことやることが一致していますか?          いいえ 94%
●仕事や職場環境に関する意思決定に従業員を参画させていますか?  いいえ 89%
●この会社の管理職はえこひいきしないように心がけていますか?   いいえ 83%
●この会社の人達は仕事に行くことを楽しみにしていますか?     いいえ 100%
(最後の項目は、特にひどい結果です!)

あまりの惨憺たる結果に、岩崎社長と副社長の日高さんは二人でがっくり。
お二人は、それまで社員のことを一生懸命考えて経営していたつもりだったそうです。
例えば、社員の健康を考えて「スポーツジム費用を負担」したり、
教養を高めるための「書籍費用2000円提供」したり、
「無農薬野菜の提供」「リフレッシュルームの設置」等々。
そのうえ、残業無しの会社・・。
社員にとってこんないい会社はないだろう、とさえお二人は思っていた。
なのでこのアンケート結果にはほんとに落ち込んで、会社辞めるか、とさえ話し合った、とのことです。
また、二泊三日の外部社員研修では、
第二班の一般社員が車座になって泣いているという連絡が主催者から直接岩崎社長に来たそうです。
自分達は会社から認められていないので、
自分の強み(良さ)を自覚して、社会貢献する、と言うことが出来ない、と言う事だったようですが、
このことも岩崎社長にとっては、とてもショッキングでした。
ご自身の社員に対する向き合い方や会社の社員に対するあり方への大いなる反省につながり、
そこではじめて、
「会社は、○○と言う未来を目指している。そしてだから、あなたには○○を期待している!」と言ってあげることが、
何より大事なんだ、と気が付いた、そうです。

“暗黒”な社内を作った原因は?

では、そんな“暗黒”な社内になってしまった原因は何か?
自社のことを良く知っている外部の方に尋ねたら、なんと・・
「二人とも、支配者だから!」の一言。
そう言われてびっくり。二人は全くそう思っていなかったそうです。
超ワンマンな社長の大半は自分がワンマンと思っていない、と世間では言われている。
自分達もまさにそうだった。むしろ自分はいい人と思っていたくらい。
でも振返ると、自分の方がお客様のことはよく知っているし、会社のことは自分が一番考えていると思っていたので、
部下が何か言ってきても、ほとんどその場で否定していた。・・
この辺のお話は、本当に臨場感があって、人のいいワンマン社長の典型的な姿と思えて、
くすっと笑いたくなるぐらいでしたが、
実際の当事者からすると、なんとも深く悩ましい状態に陥ってしまっていた、と言うことになるでしょう。

改革のはじめの対策として

それで、大いに反省して、まず初めにどうされたのか?
ここではコンサルタントの方の質問が大きかったようです。
その質問に二人で真剣に向き合い、答えを考えることで、何をすべきかがはっきりしたとのこと。
その質問は次の通り。
「岩崎さんと日高さんのお二人が、億万長者になられても仕事を続ける理由は何ですか?」
この質問は、すべての社長さんに投げ掛けていい質問と思います。
何のために会社のやっているのか、その深い一番の理由ですが、質問の仕方がとても上手いので考えやすいですね。

そこでとことん二人で話し合って出てきた言葉が、「挑戦!!」。
以前もいろいろキーワードを言ってきたが、
今回は本気と思ってもらうため、
ポスターも作って繰り返し何度も言い続け、研修も何度も繰り返し行い、しつこくやり続け、振り切った。
また、改善提案書を書いたら、内容は関係なく一枚500円もらえる制度なども作った。
そしたら、それ以降社員達から新しい挑戦のアイディアがどんどん出てきたし、
新しい商品もどんどん生まれて、年商が56億円から、75億6千万円、さらには88億5千万円へと、
いっきに急成長、業績アップして、その後の次の成長につながっていったそうです。
まるで絵にかいたような逆転劇と言えるでしょう。
部下への権限移譲、予算を決めて社員に任せてやらせてみる方が、
社長副社長だけでがんばるより、よほど業績が上がるということがはっきりよくわかった、とのことです。

また、「暗黒時代の歴史から、今の価値観になった」ということをみんなが自分と同じように喋れることが大事、
とおしゃっていましたが、とても納得できるお話と思います。
今回のご講演のお話内容は、きっと社内でも同じようにお話していて、
社員皆さんが共有されているのだなと思いました。

次のキーワードは・・「誠実」「明るく元気」

一方、そうやって「挑戦」をキーワードとして打ち出したら、
今度は社員が好き勝手なことを言い出すことも出てきた。
そこで、次に「誠実」と言うキーワードを掲げることにしたそうです。
その意図は「挑戦」のための明確な判断基準を示すためで、
その基準は「お客様のため」「結果を出すため」。
その判断基準に合った挑戦を求める、と言うことです。
その底には、スキル以前に「人間性」が大事という考えがある、ともおっしゃっていました。
また自社事業の姿勢としても、「誠実」を前面に掲げて、お客様に対することを表明しているそうです。

それからさらに作ったキーワードが「明るく元気」。
私はこのキーワードをご講演中に聞いたとき、ちょっとびっくりして嬉しくなりました。
なぜなら、実は、以前私がこのコラム欄に載せた記事タイトルのキーワードとピッタリ同じだったからです。
(VUCA(変動、不確実、複雑、曖昧)時代の社長の大戦略①
         ―よくよく考えて・・“何より明るく元気!” 2023.2.27付)
私はこれからの時代、経営には「明るく元気」が何より大事と思っていますが、
岩崎社長も同じようにお考えになっていて、実際に自社でそのことを実践されているということに、
ほんとうに共感しますし、ワクワク素晴らしいな、と思います。

こうしたキーワードは、単にキーワードだけでなく、
その言葉に合わせて具体的な望ましい行動と望ましくない行動がわかるスタイルリスト(チェックリスト)も作成されていて、
そのスタイルリストを日々の運営に使っているとのこと。
例えば、「ガラスのハート禁止」・・注意されても、フーンとなったり過剰に反発することは禁止。
上司の立場からはよくわかります。表現にユーモアがあっていいですね。
また笑顔研修もされていて、明るく元気でなければ、社内の連携もうまくいかないし挑戦などできないだろう、
とおっしゃっていて、まさにその通りと思います。

社員の講話が、社内活性化に大きな効果!!

それからとてもうまくいっていて、社内の活性化に大いに効果を発揮しているのが、
社員一人一人が発表する講話の仕組みだそうです。
1)仕事で大切にしていること
2)他の社員の学びになること、あるいは感謝していること、をテーマに一人8分みんなの前で話をして、
3)最後は他の社員からの感想を共有する、
と言う手順で行うそうです。
詳細な運営方法はお聞きする時間が無かったのですが、
そのことで、その人となりがわかって、お互いがとても仲良くなれる。
またそうやって各人の体験談を発表することで「泣くほどつらい時期こそ、成長のチャンスである」こととか、
「仕事が楽しくない理由が、実は自分自身の考え方にある」こと等、
大事なことを自分達自身で気付けることも大きいとおっしゃっていました。

出産しても働きやすい制度

それから、出産しても働きやすい制度にとことんこだわっていて、こんな会社があるのかと驚かされました。
まず残業は基本ゼロを徹底。
産休育休取得率100%。
時短勤務制度(小学生まで6時間勤務)。
病児ベビーシッター利用料3万円のうち自己負担300円。
時間休の柔軟な取得(1~6時間)。
スーパーフレックス制度(5時から22時まで分割勤務可能)。
時差出勤制度・テレワーク制度(在宅、出社どちらも可能)などなど。
特に驚いたのは、若手社員に子育て社員の一日を体験してもらう研修を行っていること。
実際に行っているところを昨年6月NHKテレビ「あさいち」で放映されたそうです。
「一生活躍し続けたい女性が、やめなくても良い会社」の実現を目指していると、
ランクアップでは表明しています。岩崎社長の、その本気度、すごいですね。

◎最後に

「(社員は)報酬では、明るくなれない。やりがいが一番大事」とおっしゃっていました。
まさに、岩崎社長のこれまでの経営者としての実感と思います。

それでご講演の最後に、
私の方で暗黒時代を乗り越えるのに、岩崎社長個人として、どんな努力をされたのかをお聞きしたところ、
次のようなお答えをいただきました。

ひとつは、「話を最後まで聞くようにした」そうです。
とても深く味わいのあるお答えをいただいたなと思いました。
今一つは、「先にマネージャ―クラスの6人と経営合宿を何回も行って、とことん腹を割って話し合った。
そこで6か月かけ、6人を味方につけてから、次に残りのメンバー22人を巻き込んでいった。
それに6か月。トータル一年でゴールと考えて進めた。
全員を巻き込むのに、2:28は厳しい。
そこでまずは8:22の状態を作ることを考えた。」とのことです。
とても実践的で、他の経営者の方々にも大変参考になるお話と思いました。

ホントに時間が短くて、まだまだいろいろなお話をお聞きしたいと思いました。
たとえば、はじめて新製品が出来た後のマーケティングのやり方とか、組織の立ち上げ方。
そして今回のお話にはほとんど出てこなかった、日高副社長との関係や経営上の役割分担です。
私も多くの中堅中小企業様をお手伝いしていて、社長に次ぐナンバー2の役割がとても大事と思っています。
ですので、次の機会があったら、是非そんなお話もお聞きしたいと思っています。

30年近く前になるのですが、私は「株式公開」と言う著書を出して、
その中で「会社は、人の成長発展と同様、『自我』と『肉体(組織)』と『外部環境』の三つの要素をもって、
変革しながら成長発展する。
特に創業から次の発展のためには、
社長個人だけの自我、肉体を会社と言う集団的組織にあわせた状態に変革していくことが必要になる・・」
と言ったことを書きました。
岩崎社長のお話は、まさに創業社長の自我と肉体の成長におけるジレンマとそれを乗り越えていく変革の軌跡であり、
とても大きな感動と気づきをいただきました。
あらためて大変ありがとうございました。

と言うことで、またまた話が長くなってしまいました。
今回の感想はこれくらいにしておきます。
繰り返しますが、大会参加者の皆さんには是非聞いてほしい内容ですので、
今回の文章が少しでもご参考になれば幸いです。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)