2023年10月25日

今の時代の“本質”を照らす、アサヒビール、マーケッター社長の奮闘記!(後編)

今の時代の“本質”を照らす、アサヒビール、マーケッター社長の奮闘記!

~第138回(2023.7)全国経営者大会の感想②-2~
(前編はこちら
講演タイトル:
【アサヒビール 代表取締役社長  松山 一雄氏
タイトル:《顧客創造》お客様を中心とした経営 -世界で一番魅力的でワクワクするビール会社を目指して- 】

◎世界初!生ジョッキ缶の誕生秘話

次は、実際の新商品「生ジョッキ缶」開発販売のお話です。
この新商品については、
・12年前、丸缶の蓋がすべて開く技術が出来た
・6年前、泡の出るビールのアイディアがあった
と言うことが大前提で、この2つのことがドッキングされて開発できた商品とのことです。
そしてこの新商品は、若手社員一人の発想で生まれたものだそうです。
飲み会で、先輩から6年前の失敗の話が出て、
その話がその若手社員にとってとても興味深かったことから、
再チャレンジするきっかけになった、とのこと。
「チャンスは貯金できない!」。
このフレーズを強調したい、とおっしゃっていました。

◎その時の課題(障害要因)は次の通り。
1)設備投資がかかる
2)前例がなく、需要予測ができない
3)営業は「売れない!一過性で終わる」と言っている
4)製品開発として缶ぶたが上手く巻き付けられない
5)飲む瞬間に泡を出すのが難しい
(泡は温度に関係し、その制御が難しい。出ない、出すぎる・・。)

そこで逆転の発想をした。冷蔵庫の置く位置でも泡の出方は変わる。
ならば、それはお客様の扱いに委ねる。
すなわち、『お客様と共同作業する商品』と考える、と言うお話です。
お客様からするなら、ご自身で作られる偶然性、
その場限りのハプニングが、たまらなく面白いという価値。
何より大事なのは「インサイト」・・「それで、お客様の心が動くか!」ということ。
その「インサイト」があったから、爆発的に売れた、とおっしゃっていました。

このお話を聞いていて、
以前高岡氏のご講演でお聞きした「ネスカフェ、アンバサダー制度」のお話ととても近いものを感じました。
というのは、アンバサダーになられる方は、自主的で、ご自身がとてもやる気を持っていて、
その満足度がとても高いものがある、とのことです。
このお話も、今の社会状況を端的に表していて、
会社側からの一方的な商品サービスの提供ではなく、
お客様の自主的主体的な関わりが大事になっているし、
むしろそこにこそ大きな価値が生まれる、と言うことだと思います。
(それだけ、多くの人が自身の主体性や存在意義に不安を感じているし、
その主体性や存在意義に飢えているという事でしょう。
今はやりの”推し活“にもそうした社会状況を感じます。)

わたしは、もう20年以上前ですが「リレーショナル・マーケティング」と言う本を出して、
そこで7つのキーワードを掲げていて、
その一つが「パーソナル対応と顧客参画」でした。
最近は特にその「顧客参画」と言う考え方がより重要になって来ている、と実感できるお話でした。

松山社長によると、その後「泡」の制御の技術革新もあって、
「世界で一番ワクワクする缶ビール、期待を超えるおいしさ、楽しさ」を訴えられる新製品として発売でき、
大きな反響をいただいている、とのことです。

◎その他、とても興味深く勉強になったこと

その後のお話も、とても興味深く、またとても勉強になりました。

「マルエフビール」復活のお話

マルエフビールというのは、社内のおいしいビールのコンテストで一番になった、
とてもおいしいビールだそうで、それを復活させたお話です。
コロナ禍、“不要不急”が自粛することになって、
本当に大切なことが切り捨てられているのではないか、という疑問から生まれたそうです。
「日本のみなさん、お疲れ様です!」と新垣結衣さんが
こちらを向いてニコッと言ってくれるCM。
確かに癒されましたね。

そこで設定された3つのキーワードは、次のようになっています。
一つ目に「日本にぬくもりを」。提供する価値を一言で言っています。
二つ目、製品的な特長としては「まろやかなうまさ」。スーパードライとは真逆のコンセプトですね。
そして三つ目は、社会背景や結果として求めるものとして「人と人とのつながり、優しさを感じ、幸せになれる」だそうです。
さすがにキーワードで表現される新商品の目的がしっかり伝わってきますね。
言葉の大事さをあらためて感じる次第です。

ビールを飲まない層の掘り起こし

それから、ビールをあまり飲まない層(人達)を掘り起こす取り組みも、とても勉強になりました。
成熟化したビール市場において、さらに市場を拡大させるためには、どうしたらいいか。
そのこと(課題)を頭において市場を今一度分析し直したら、
実はほとんどビールを飲んでいない層が多いことに気が付いた。
だから、その層を掘り起こせれば、まだまだ市場を拡大できる、と思ったそうです。
そこで始めたキャンペーンが「スマドリ(スマートドリンク)でええねん!」
飲めても飲めなくともいい、一緒に楽しもう、と言う主旨。
「飲める、飲めない」の分断を無くして、
(ビールを一緒に飲みながら)生活を楽しむ文化をつくっていく、
との思いを打ち出したキャンペーンだそうです。
浜ちゃん他吉本の人気お笑い芸人たちが、
明るくみんなでワイワイ楽しんでいるCMが印象的ですね。
キャンペーン一つ一つに対して、その社会的意義価値をしっかり考えた上、
そのことをどんな言葉でどんなやり方をして、訴えていくのか。
こうやってお話をお聞きすると、単なる直感的感性だけでなく、
とことん論理的に考えられていることがわかります。
そのノウハウと言うか(社会的意義価値を考える)考え方がいかに大事か。
その考え方やり方の一端をこの実例で見せていただいたよう感じました。

(例えば、
「アルコール度の低いビールが出来ました。
ですから、今まであまりビールを飲んでこなかった方も、おいしく飲めますよ。
是非、試しに・・。」では、
売上を上げたいビール会社の一方的な押し付けで、
全然ワクワクしない、ですよね。)

R&D本部とマーケティング本部の統合(2021年4月)について

ご講演の最後の方でお話していただいた、組織的な改革も、大変共感しました。
ご自身がトップになって行ったことで大きな効果を発揮したのが、
開発、マーケティング、営業が一体で動くことを目指した、R&D本部とマーケティング本部の統合だそうです。
市場の変化多様化がどんどん激しくなっていく中、
明確な方針と考え方をもって、全社一体となって一気通貫に一気に動いていくことが、
今ほど求められている時はない!と言うことだと思います。
このことは、大企業はもちろんのこと、中堅・中小企業でも、全く当てはまる事でしょう。
むしろ全社一体化と言うことでは、大企業より、社長を中心に動ける中堅・中小企業の方が有利なはずです。
ところが残念ながら、多くの会社さんで、
例えば営業本部と営業現場、技術・開発、サポート部隊がばらばらになっているケースが多いよう思います。
でもだからこそ、部門間やセクション間の連携を見直し、
全社一体での活動へと少しでも改革出来るなら、間違いなく業績アップすることと思います。
それだけ伸びしろがある、と言うことです。
実際私がお手伝いした会社さんでも、
営業部門と技術開発部門の連携が密になることで、売上が前年比25%アップしたことがあります。
(その話は、またの機会にしましょう。)

それで、松山社長は、最後にこんなことをおっしゃっていました。
経営プロセスに、失敗を許容して、トライ&エラーのサイクルを高速で回す仕組みを入れること。
日本企業の凋落の原因(の一つ)は、(内向き)縦割りになって、
失敗を許容しない組織になってしまっている。
その改革が何より大事、とのこと。

まことにその通り、耳が痛いです。
会社だけでないですね。日本社会全体の課題でしょう。
でも、社会的課題があることは、ビジネスとしては、そこにチャンスがあるということ。
私は、だからこそ多くの会社さんに、今こそ大いなるチャンスがある、と思っています。

松山社長には、大変ありがとうございました。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)

講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)