2024年3月22日

“命”を懸けた活動をしている、NGO最強リーダーの覚悟と実践方法(後編)

“命”を懸けた活動をしている、NGO最強リーダーの覚悟と実践方法

~第139回(2024.1)全国経営者大会の感想①-2(後編)~
(前編はこちら
講演タイトル:
【特定非営利活動法人 ピースウィンズ・ジャパン代表理事:大西 健丞氏
タイトル:《緊急報告》社会課題の解決に挑む! NGOの復興支援の実態 ―世界34の国と地域で支援活動を展開―】

能登半島地震対応の際の対応について

NGO活動の実例として、はじめに今年1月1日に発生した能登半島地震の際の、緊急支援のお話がありました。
(この講演が1月25日ですから、まだ渦中のお話と言うことになります)

大災害の時ほど、地元の警察、医療、消防署などが連携して活動することが求められ、
さらにその地元に対して外部からの(船、トラック、ヘリコプター等のロジスティックを組み合わせた)
全面的かつ早急の支援活動が特に大事になるとのこと。
ところが、それがなかなか難しい。
今の日本の行政の体制では南海トラフ地震などが起こっても十分な対応が難しいことは明らかで、
今回の能登半島地震の災害に対しても、即応することが出来ていなかった。
そのため、(自分たちは、行政より早く動いて、行政を動かす、と言う考え方を取って
何より機敏に動くことを心掛けているが・・今回もそうした考えのもとに)地震発生後すぐに活動を開始し、
ヘリコプターでの医療従事者の派遣からはじまって、1月5日にはどこよりも早く珠洲の港に船で到着。
地元市役所と連携してスピーディに荷物を各救援所に送ることが出来た。
(海が荒れた中、太平洋側の港から関門海峡を渡って北陸へと大きく迂回しての到着だったそうです。)
今回の災害では、道が分断されてトラックでの輸送に大きな支障がある中、
ヘリでは運べる物資の量に限界があった。
そこで船舶で大量の支援物資を送ることが出来たことは、なによりよかった、とのことです。

そこで裏話。
実は今回の災害では、政府に対してアメリカの海兵隊から支援の申し出があったそうです。
実際アメリカ海兵隊は災害支援を活動の主目的の一つにしており、
かなり実践経験しているし訓練も充実していて、とても頼りがいがある。
一方、日本の自衛隊は、(日本人の多くの人が思っているよりも)災害支援活動の位置づけが低く、
3次元(陸、海、空)の連携も弱いのが実情。
ところが今回、そのアメリカ海兵隊の支援申し出を断ったそうです。
ウ~ン、政府は何考えているんだか・・?(今の政府の訳の分からなさは、今回だけではないですが・・)

ちなみに今回の災害からも、大災害時には船による物資の運搬がとても重要なことは明らかで、
そのため今回の支援には間に合わなかったものの、より大型の船舶を保有する計画を現在進めているそうです。
大型であれば、より多くの支援物資を運べますし、
大きな医療設備も送れ、支援に行ったメンバーの休める場所も確保できるとのこと。
資金60億円が必要で、若手(ベンチャー経営者など)の金持ち6人から10億円寄付してもらい、
残りは投資カンパニーを募ったそうです。
NGOと言いながら、結果を出すためには、
まさに(起業家の資金集めのような)ビジネス的実行力が求められることがわかりました。

東ティモールでの、コーヒー生産者支援について

一方、海外貧困国に対して支援している事例として、東ティモールでのコーヒー生産支援のお話がありました。
日本の大手コーヒーメーカーの技術者を派遣して、その指導の下に高品質のコーヒー生産を推進しているそうです。
また、公文式の算数を教えることもしているとのこと。
なぜなら、複利計算を教えることで、一方的な取引条件に騙されることを阻止でき、貧困化対策になるそうです。
現在事業規模としては3億5千万円程度ではあるものの、
現地の人達が自立したビジネス活動から自分たちでお金を稼ぐことのできるという実際の例となっており、
東ティモールにとって社会的なインパクトはとても大きいとのことです。

保護犬の殺処分ゼロ運動について

それから、次のようなお話がありました。
神戸の大震災の際、7000人死亡のうち700人は病院で放置されて死亡している。
そうした無駄?な死をいかに減らすか。
今すぐ緊急治療室に連れていかないと死んでしまう人を救いたいとしたら、こちらもリスクを取らないといけない。
(万一、その行為を行って、その患者が死亡したら、その責任を問われる可能性がある。
しかし、そのリスクを取っていかないと、人は救えない。その現実から逃げてはいけない、ということ。)

そうしたリスクが顕在化したのが、保護犬の殺処分をゼロにする活動です。
広島県では、毎年保護した犬猫を数千頭殺処分していて、
その時の生存率は、3.8%。全国ワースト一番だったそうです。
そこでSNSで発信して引き取ってもらう人を募ることにし、
あわせて保護犬を救助犬にする活動もはじめたとのこと。
(それまで救助犬になれるのは、6世代までさかのぼって血統がいいことを証明できる犬に限られていたそうです。
そのルールを破っての試みだったそうですが、それに成功したとのこと。)
まずは、ふるさと納税の会社と提携して、殺処分の問題を訴えてスタート。
そこで引き取ってもらえる人達を募ることで、セカンダリ―マーケット(中古市場)をつくることにした。
実際の運営方法としては、サブスクの仕組みで会費を募るやり方を取ったそうで、
辞める人は7~8%程度で、今も安定しているとのこと。
そうした対策を打ったことで、1000日(約3年未満)で、広島県での殺処分数はゼロとなり、
ワーストワンからベストワンになったそうです。
明確なビジョンを掲げ、必ず実現したいという強い思いを持って行動することが、
多くの人を動かし社会を変えていく、と言うすばらしい事例と思います。
ビジネスであれば、イノベーションを伴った新規事業の華々しい成果と言うことになるでしょう。

ところが、そうした活動の途中で、動物虐待をしているのではないか、
と言う非難がSNSで起こってしまい、苦境に立たされたそうです。
一時当団体への寄付も激減して危機的なことになったものの、
実際の活動内容を知ってもらうことでようやく乗り越えることが出来たとのことです。

その他の活動の紹介もありました。

伝統工芸の支援活動(佐賀県)について

佐賀には、400年以上の歴史を誇る有田焼や唐津焼をはじめ、
織物、和紙、ガラス工芸、家具などさまざまな伝統工芸があり、
その伝統技術を未来につなぐための活動を市と協力して行っているそうです。
著名な外部デザイナーを呼んで、新しい感覚の製品開発を行ったり、
イベントを開催して新たな振興を図りながら、若い継承者の育成も図っているとのこと。
日本の地域の活性化を図るという目的がもともとにあるそうです。
給与は安いものの、社会的な課題を解決するというやりがい感を持つことが出来るため、
いろいろ優秀な人材を集めることが出来る。
その点からも、企業はもっと社会的な課題解決についての意識を持っていい、とおっしゃっていました。

海外支援について:イラクでの保健病院の建設、コソボでの支援など

イラクでは、化学兵器工場の跡地に保健病院を建設したとのこと。
それを実現するため、当時の首相である福田さんにイラク共和国の大統領と直接面会してもらって、協力を依頼したそうです。
福田さんにそうした海外支援活動に共感していただいたことで実現できた案件とおっしゃっていました。
(但し、その後の首相の人達はそこまでの関心が無いとのこと・・)
またコソボでは、ジャパンプラットフォームを設立して経済界と連携し、継続的な支援体制を整えたそうです。
当初は財務省に協力を依頼したもののなかなか動いてくれないため、経産省を動かした、とのことです。
NGOの活動を広げるためには、政府・経済界などと連携する機関が必要とおっしゃっていました。
NGO活動が、すこぶる政治的な配慮をしながら、さまざまな関係機関や組織を動かす必要があることがわかるお話でした。

と言うことで、とても様々な活動をされていることがわかりましたし、
それも従来にない発想での実行力によって、政府、行政、企業、そして個人を動かすことで、
様々なところで多くの困難を乗り越えて、大きな成果にむすびつけられていることもわかりました。
これだけ大掛かりな社会活動を進めている団体が日本にあることを初めて知り、
とても頼もしく、またうれしい熱い思いが湧いてきた次第です。

最後に、
「(政府は、今まで起こったことがない事に予算を付けることは難しい。
また行政は競争相手が普段はいないために、新しいことを自ら進めていくことはなかなかしない。
日本は地震大国で、例えば震度6以上の地震が発生したら、
すぐに全体的な指揮が取れる体制が必要だが、残念ながら今はそうなっていない。だから)
政府や行政との連携は大事だが、それだけに頼るのではなく、
“民間防衛”という発想で、自分達がまずは動いて、
その上で政府や行政を動かしていくことがとても大事になっている。
多くの災害支援活動が、企業とマッチングした時に最大の力を発揮する。
例えば、東日本大震災の際は、トラックの確保に障害が出たが、
引っ越し業者さんからトラックを引き受けてその障害を乗り越えた。
そうした民間リソースの投入、民間専門職(例えば退役自衛官など)の協力などなど・・。
そうしたことがより可能となる制度づくりを進めていきたい」 とのことでした。

政府や行政の動きに対して、ご講演の中では現状へのもどかしさを表す表現も時にありましたが、
それは批判というより、そのことを現状の課題としてとらえて、
その課題を解決するための方法論を冷静に考える、と言う姿勢を強く感じました。
実際に紛争や大災害で多くの人々が危機的な状況に陥っているとき、批判だけでは何の意味もない。
どういう対策が求められるのかを考えることが大事、と言うことがよくわかっておられるからと思います。
それは、「すべての責任を自分で引き受ける」と言う覚悟からきているよう思い、
このことは、経営者にも当てはまるよう思いました。

感想の最後に・・会社の今後のあり方として

感想の最後に、この講演をお聞きして、
会社の今後のあり方について、私が思ったことをお話したいと思います。
(私の場合、経営コンサルタントと言う職業柄からか、
多くの話を「今後の会社のあり方」と結びつけて聞いてしまいます。
今回も、まさにそうでした。)

最近「パーパス経営」と言う言葉を良く見受けます。
企業の社会的意義を明確にして、その意義を柱に自社のビジネスを進めていく経営のことを言っていますが、
私は大企業以上に中堅中小企業こそ、その「パーパス経営」がまさに大事になっているよう思います。
それは、決して“きれいごと”ではありません。

その理由として、3つ挙げたいと思います。
一つには、世の中で様々な社会的課題が大きく顕在化し、
その解決が待ったなしの状況になりつつある現在、そこに大いなるビジネスチャンスがある、ということ。
感度の高い経営者は、そのことにはっきり気が付いていて、
意図して自社の活動をその社会的課題解決と結びつけていこうとしているようにさえ思えます。

二つ目は、変化多様化がますます激化していくこれからのビジネス環境において、
自社だけにとらわれず、周囲の人や組織、機関を巻き込んで、柔軟に対応しながら、
自社事業の輪をどれだけ広げていけるかどうか、がビジネスの成功のカギを握るようになっている、ということです。
その事業の輪を作っていくためには、
みんなが共感するような社会的な意義価値を鮮明にした自社ビジョンが何より大事になるでしょう。
この点は、まさに今回のNGO活動のお話がそのままビジネスにも当てはまるように思います。
決して自組織だけの活動にとどまることなく、
積極的に異質な強みを持ったさまざまな周りを巻き込んでいくことが、大いなる成果に直結していました。
それは、社会的にとても高い意義価値ある活動をされていて、
そこに多くの人達の熱い共感が生まれるからこそ出来ることだと思います。
ビジネスもまさに一緒ではないでしょうか。

そして三つ目の理由としては、会社にとって何より大事な、「大志と誇り」を鮮明に持つことが出来ること。
もはや、「金儲け」だけを目的に会社が発展できる時代ではないでしょう。
「大志と誇り」が何より大事。その大志に人が集まり、その集まった人たちが誇りをもって、
より高い目標を掲げ、より高い成果を求めて頑張る。
その結果、会社の業績が高まるだけでなく、
そうした人達が飛躍的に成長することで、会社もさらに成長発展していけることになる。

今回、大西氏のお話をお聞きして、
これからの会社のあり方について、あらためて深い気づきを得られた次第です。

(ちなみに、大会テキストで大西氏の経歴を確認しましたら、
2021年~経済同友会「新しい経済社会委員会」副委員長、
2023年5月~経済同友会「共助資本主義の実現委員会」副委員長となっており、
まさに私が思ったことを、実践的に進められていることがわかり、
びっくりするとともに、とてもうれしく感じました。
大西氏の、今後の大いなるご活躍を期待したいと思います。)

ということで、出来れば、分科会ではなく、大会参加者の皆さんにお聞きしてほしい内容と思いました。
大西氏の社会的な大志と柔軟な発想に基づく実行力、
そしてその結果として大きな成果を実現しているお話は、
必ずや社長や経営幹部の皆さんに、大いなる勇気と動機付け、
さらにはビジネス的な新たな気づきを与えてくれるものと思います。

皆様には最後までお読みいただき、ありがとうございます。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

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