2024年5月24日

“社長は太陽!”の見本、農協出身(52歳)社長のベンチャー大奮闘記

“社長は太陽!”の見本、農協出身(52歳)社長のベンチャー大奮闘記

講演タイトル:
【山下欽也氏 岩泉ホーディングス社長
タイトル:《驚異》倒産寸前!どん底からの大逆転の軌跡-岩手発「岩泉ヨーグルト」大ヒットの秘密-】

はじめに:
前回、大会への感想としてNGOのリーダーである大西健丞氏のご講演についてお話しました。振返って「トップリーダーのあるべき姿を垣間見ることができ、そのことが何より良かった!」と言うのが正直な感想です。
野球の大谷選手もそうですが、“まさに理想!”と思わせてくれる人がいて、その活躍する姿を目の当たりにすると、自分とは比べるべくもないものの、自分にも実際なにか大きな元気と勇気を与えてくれるよう感じます。
そうしたトップリーダーのあるべき姿と言うことで、もうひとつ、岩泉ヨーグルトの山下欽也社長のご講演についてお話したいと思います。

岩泉町とは

岩泉ヨーグルトは岩手県岩泉町で作られていますが、岩泉町は本州で一番広い町であり、東京23区の1.5倍程度の広さにもかかわらず、人口は8400人程度。地域の93%程度が山林などになっていて、人が住める面積が7.4%しかないそうです。都会に住んでいる私には、ちょっと想像しづらいほど山間部の町と言う感じですね。そんな岩泉町は、明治時代に岩手県ではじめてホルスタインの乳牛を導入し、その乳牛生産が町のメイン産業となっていったとのことです。

山下氏が赤字会社の社長になられるまでの経緯

そうした経緯もあり2005年に第三セクター方式で牛乳生産を主な事業とする会社を町に設立することになり、それで山下氏は当時48歳、その会社の創業に合わせて、それまで勤めていた農協を退職し、執行役員工場長として赴任されたとのこと。
ところが、と言うか、やっぱりと言うか、その後会社は13億円投資したにもかかわらず、たった3年で赤字3億円を抱えてしまう事になったそうです。町にとっても財政だけでなく、将来の希望まで失われるような危機的状況に陥ってしまったと言うことになる訳ですが、その結果2009年、(誰もなり手がいなかったから?)山下氏が社長になられたとのこと。
それまでサラリーマンだった安定した職場を48歳で退職し、先行きどうなるか海のものとも山のものともわからない、第三セクターの新会社に転職するというのは、相当の覚悟が必要で、その覚悟の源にはきっと町の希望となる新会社への“熱い思い”があったことと思います。さらにその後52歳で3億円もの赤字を抱えてしまった会社の社長になる、というのは、とんでもない決断と言うか、普通に考えたら、ありえないほどの決断で、私ならとうてい出来ないなと思います。そこには、山下氏に“こうすればどうにかなる”と言う確信めいた思いがあったはずですし、それ以上に“何としてでも”という強い使命感が心のうちに沸き上がっていたから、と思えます。その52歳の決断に震えますね。
ところがそれだけではないんですね。さらに大きなリスクを負った決断をされているのですが、その話は後にしましょう。

新社長のベンチャー的発想と大きな決断。・・会社再生の抜本策として

そんな危機的な状況で、山下社長が考え実行した施策が素晴らしい。
前提として、そもそも牛乳生産の会社として最後発。なおかつ牛乳事業は差別性を出すのが難しく、大量生産でコストを掛けないことで成り立つビジネスである。だから(これまで大きな投資をしてきたが)牛乳生産からはきっぱり撤退。かわりに発酵乳(ヨーグルト)に特化することにした、とのこと。
そこで採った対策は以下の通り。
①菌類の権威から指導を仰ぐこと。
→やるなら、とことんこだわって、本当にいいものを作りたい!
②岩手県産の牛乳を(そのまま)使うことにこだわる。
→他社は、粉に水を入れて作るのが一般的。その違いをはっきり打ち出したい。
③市場で希少な「低温長時間発酵」に挑戦。
→発酵時間が通常の3倍。それだけコストアップ。だがそれだけおいしい。
④国内ではじめて、アルミパッチのヨーグルトパックの採用
→その結果、長時間輸送が可能となり、全国販売が可能となった。

「業界の常識知らずで、いいと思ったことは何でもやった」とのこと。言うは易く、行い難し。謙虚に現実を受け止め、聞いて聞いて調べて調べて、何が大事なことかを考え抜いた上で、素直に「これだ」と思えたことを即決断し実行する、と言うことだと思います。
こうした実行がされていなかったら、岩泉ヨーグルトは間違いなく倒産していたことでしょう。起業よりもはるかに厳しい状況での、大逆転劇と言っていいと思います。
私は、この山下氏の新しい発想にかける強い思いと実行力に、まさに“ベンチャー精神の理想的な姿”を見てしまいます・・。
で、今ひとつ大事なこと。それは、こうした大きな決断を実行するには、それに伴う大きな資金が必要になるということです。そこで山下社長は、大赤字の会社が銀行から新たな融資を受けるため、なんと2億円の個人補償をされたそうです。そのことで奥様に(呆れ果てられ?)一週間家出されてしまったそうです。笑いながら一言おっしゃっていましたが、相当大変な状況であったことがわかります。奥様としたら、そんな大赤字の社長になる事だけでも、とんでもない事なのに、その上大きな個人補償ともなれば、万一家族が大変なことになってもおかしくない、と思われたことでしょう。

その他の策として

話を続けます。それからどんな手を打ったのか。
・販売先はスーパーを辞めて、ホテル、旅館、通販、温浴施設に変更。
・残った在庫は、地元の人達に少し安く買ってもらうことで、在庫リスクゼロを実現。
・社員の家族からファンづくりをする一方、乳業拡販部隊を作り、軽トラックで町を回って直販も。
・会社だけでなく町の話題も積極的に発信。また新製品が出来た時は、岩手県では珍しいので、新聞、ラジオ、テレビ等いろいろなメディアで取り上げてもらえるよう推進。
・一方で、モンドセレクションにエントリーし、2011年金賞受賞。
2009年に会社再建に着手したわけですから、かなり早い段階でのチャレンジと思いますし、その結果すぐ金賞を受賞することが出来たのは、すごいことだと思います。山下社長様の、最高を目指した商品開発へのこだわりが一番の要因でしょう。
その後も継続的に賞を受賞しており、その都度現地に社員を連れて行って、慰労を兼ねて海外の食品マーケットの勉強をはかっている、とのこと。

地元素材を使った、新商品開発にチャレンジ

一方、地元ゆかりの素材を使って、新製品開発に積極的にチャレンジしているそうです。失敗も多いが、リスクをあまりとらない形で進めたいため、大半は委託製造。成功例として「龍泉洞のスキンケアシリーズ」は大人気で、事業の柱の一つになっているとのこと。
最近では、「イタリアンジェラート」を他企業とタイアップではじめて道の駅でも販売し、これも大人気商品になっている、そうです。

広報に合わせて、地元地域のPRと活性化の推進

また、地元岩手県ゆかりのアスリートを積極的に支援しているとのこと。アスリートのファンは、彼らの食べているものを食べたいと思う。なので、実際にアスリートのお気に入りの食べ物になって、“絶品、おなかすっきり”などと率直に言ってもらえることが、とても宣伝効果がある、とのことです。そのため、広報担当者の専門の人も置いていて、商品だけでなく、あわせて岩手県、岩泉町のPRも進めているそうです。
そうした中、昨年5月1日に大谷選手が、「岩手県の名産品を教えてください」と質問された時に「一番のおすすめは岩泉ヨーグルトです」と言ってもらえ、大変な反響をもらったそうです。実際には、大谷選手には会ったことも接点もなかったので、ほんとにたまたま言っていただいた、とのこと。
同じく昨年のG7広島サミットでは、各国の首脳に「龍泉洞の炭酸水」を提供させてもらった、と言うことです。

大ピンチに際しての山下社長の決断

一方、話は変わりますが・・2016年台風10号の大豪雨で、工場が壊滅的な被害を受け、主力商品の岩泉ヨーグルトが全く生産出来ない危機的状況になってしまった時、山下社長は「社員50名全員の雇用を守る」と宣言したそうです。
会社経営としては「竜泉洞のスキンケアシリーズ」があって大変助かったそうですが、それ以外にも、社員9名を茨城県の乳業メーカーに一時的に受け入れてもらうことにしたり、新入社員予定者には、6カ月入社を待ってもらったりして、どうにか耐え忍んだそうです。そして工場を
再建して13カ月ぶりにヨーグルトの販売を再開できて、1名の退職者が出たものの、それ以外全員が会社に復帰できたとのこと。
こうした危機に見舞われた際の社長は、まさに“太陽”のような存在であり、社長が社員みんなに希望を与えることが何より大事、とあらためて思い至らされました。このことも、本当に社長にとっての大事な心掛けと思いますが、なかなか実行するのは難しいこととも思います。

それから大事なこととして
「価格や量とは、別次元で未来を創る」
「高付加価値製品を目指すことこそが、中小企業(の戦略)」
「魅力ある製品作りは、魅力ある地域づくりに通じる!」
と言う言葉を挙げていただきました。
特に最後の言葉が、とても心に響きました。今回の山下社長のご講演内容は、まさに日本の地方をどう活性化させるか、その活性化策の具体的なとても参考になるお話と思いました。

最後に山下社長の印象ですが、鋭利なビジネスマンと言うより、いつもにこにこしながら町の人達みんなに暖かく接して、時に励まし時に叱りながら、一緒に喜びを分かち合ってくれる、地元郷土愛に溢れた町長さんのような方、という感じでしょうか。(私の勝手な妄想ですが・・)。
岩泉ヨーグルトの社長を引き受ける決断の際の一番の思いも、その地元郷土への愛だったと思います。“社長は太陽”の見本のような方、と私には思えました。

ベンチャー精神と郷土愛(使命感)の融合!
それが振り返って山下社長のご講演を聞いての、私の今の感想です。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)

講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)