2022年7月7日

『これから企業がSDGsに取り組むべき7つの理由』~前編~

今回は、アズコネクト社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 山本哲史氏に、
企業がSDGsに取り組むべき理由やその目的について様々な観点からわかりやすく記事を
まとめていただきました。2回に分けて掲載致しますので、是非ご一読下さい。
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1.世界で本格化するSDGsの取り組み

「SDGsは2030年までに12兆ドルの市場機会と3億8000万人の新たな雇用を産み出す」

上記は、2017年にグローバルリーダーが集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)で発表された内容です。12兆ドル、日本円で約1440兆円(1ドル120円換算)の新たな市場機会が創出されることを、この時、世界のリーダーは認識しています。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は2015年に国連で採択された、世界共通の経済課題、社会課題、環境課題における17の国際目標ですが、すでにビジネスの世界でも「共通言語」になりつつあります。同年、日本においても、上場企業の経済団体である経団連は、「Society 5.0の実現を通じたSDGsの達成」を柱として企業行動憲章を改定し、SDGsへの取り組みが本格化してきました。このことを受け、大企業においては、サプライチェーン全体の見直しを進めており、関連するサプライヤーである中小企業においても影響を受けることが予測されています。具体的には、サプライチェーンにおける人権問題や環境問題など、中小企業でも大企業との取引において、今後は、モノの調達という側面において、どのようにリスク管理を行っているかが問われるようになっています。企業が自社の事業、サプライチェーン全体において、強制労働や児童労働、ハラスメント等の人権リスクや温室効果排出量などを特定し、それに対処するための具体的な行動が求められるようになります。

2.投資、資金調達に関わるSDGsの取り組み

SDGsの普及とともに、市場のニーズ、そして取引先からのニーズとして、SDGs/サステナビリティ*1への対応が求められるようになってきています。実際に、投資家にも、企業の環境や社会課題、企業統治(いわゆる「ESG:Environment, Social and Governance・環境/社会/企業統治」*2)に対する施策などを考慮した上で投資行動を行う「投資における責任」が問われるようになりました。例えば、私たちの年金資金を運用しているGPIF(年金積立管理運用独立行政法人)では、2017年にESG分野へ1兆円規模の投資を決めています。上場企業は株式市場からの資金調達があるため、サステナビリティレポートや統合報告書の発行など、SDGs/サステナビリティへの取り組みが自社の企業価値を高めることの発信を積極的に行っています。逆説的ですが、SDGs/サステナビリティへの取り組みに消極的であると、ダイベストメント(投資撤退)のリスクもあることから、特に上場企業においては取り組まざるを得ないという側面もあります。
投資といいますと、中小企業ではあまり関係ないと思われるかもしれませんが、金融庁もこの流れを後押ししています。「金融行政とSDGs」という資料の中で、「SDGsは企業や経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生増大を目指すという金融行政の目標に合致する」として、金融庁としてもSDGsの推進に積極的に取り組むことを掲げています。金融庁は、地域金融機関に対し、「事業性評価に基づく融資(一般的に、決算書の内容や保証・担保だけで判断せずに、事業内容や成長可能性等を評価し実施する融資のことをいう)や本業支援の取組みなど」を促進するよう求めていくとしています。このような取り組みを通じて、地域金融機関は安定した収益と将来にわたる健全性を確保し、金融仲介機能を十分に発揮することによって、地域企業の生産性向上や地域経済の発展に貢献することが述べられています。とりわけ、金融機関と顧客との「共通価値の創造」に対して、SDGsが果たしうる役割への期待が込められています。このような流れから、中小企業への金融機関の融資においても、SDGs/サステナビリティへの取り組みを評価して融資利率を決定するなどの動きが出始めています(例:滋賀銀行「『しがぎん』サステナビリティ・リンク・ローン」など)。大企業のみならず、中小企業の資金調達という側面においても、SDGs/サステナビリティへの取り組みが重要になることが示唆されています。

*1 ここでのSDGs/サステナビリティへの取り組みとは、社会課題や環境課題といった将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現在の世代の要求を満足させる経済発展にも併せて取り組むことを言います。
*2 投資機会の側面からとらえたものがESGであり、事業機会の側面からとらえたものがSDGsと言えます。

3.SDGsの取り組みの有無が企業価値を決める

SDGs/サステナビリティへの取り組みは企業の価値向上にもつながります。日本経済新聞社は、SDGsを経営と結びつけることで、事業を通じて社会・経済・環境の課題解決に取り組み、企業価値向上につなげている企業を評価する「日経「SDGs経営」調査」を2019年から実施しており、「SDGs戦略・経済価値」、「社会価値」、「環境価値」、「ガバナンス」の4つの柱が調査項目となっています。上場企業など国内637社についてSDGsへの取り組み状況を調査したことが掲載されています。前述の4つの視点で評価し、総得点を偏差値で格付けし、各社の評価点と財務指標を比較した結果、SDGs経営調査で評価点(偏差値)の高かった企業は、ROE(自己資本利益率)や売上高営業利益率といった収益力が比較的強いことが示されています。

『後編』へ続く…
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◆アズコネクト社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士
一般社団法人SDGs推進士業協会 理事 山本 哲史(やまもと さとし)氏

山本 哲史 写真2000年に大学卒業後、独立系人材派遣会社にて総務、人事、経営企画等を担当。
2005年に社会保険労務士試験合格。以降も企業内において約12年間、人事諸制度設計や社内規則策定、採用、経営企画等の実務及びマネジメント業務に携わる。
2012年よりワイズHRM社会保険労務士事務所(現アズコネクト社会保険労務士事務所)開業。
人事労務諸課題のコンサルティング業務で中小企業の働き方改革を支援している。
2014年に給与計算、経理事務のアウトソーシング、キャリアコンサルティングの事業を行うアズコネクト株式会社を創業。また、2018年より一般社団法人SDGs推進士業協会 理事に就任。
SDGsの普及や中小企業へのSDGsの取り組みのアドバイスを行う。

(山本哲史講師への講演依頼はこちらhttps://www.koushi-select.com/list/1551322520-965293/