2022年8月25日

第136回(2022.7)全国経営者大会の感想①-2

今夏(2022.7月)の全国経営者大会の講演への感想として①-2
~いつも以上に、大きなインパクトを受けた大会でした。ありがとうございます。~

前編はこちら

-危機感をバネに、事業変革のマーケティングをすすめるお二人(西村晃氏、高岡浩三氏)のお話―

日本の今後について強い危機感を持たれているお二人、
大変著名なマーケッターである西村晃氏とネスカフェの元社長であられる高岡浩三氏のご講演についても、
少し述べたいと思います。
西村晃氏は、講演の初めに、今回の安倍元首相の暗殺事件に触れ、今の世界と日本の状況が、
過去の両大戦(つまり第一次世界大戦と第二次世界大戦)間の日本の社会状況によく似ていることを指摘され、
強い危機感に襲われたことをお話していました。
今後多くの物資の大幅な値上げは間違いないし、円安も150円を超える可能性も高い。
それだけでなく、世界不況や不慮の世界戦争など、今後の日本には世界大戦に匹敵するほどの、
危機的状況が起こっても不思議ではない、とのことです。
私は、ここまではっきりと日本の危機を訴える講演をお聞きするのは、初めてでした。
私も自分なりに今後の日本についての危機感は持っているつもりでしたが、西村氏の歴史的な事象を踏まえたお話に、
より危機感が強まりました。
山川裕正氏 コラム5画像4西村氏はその危機感を踏まえて、これまでの低成長下でも、ユニクロ、ニトリ、カインズ、コメリ、シャトレーゼなど、
「地方発のそれまでの常識を覆すような仕組みを作った企業が大きく成長している」
「人口の多いところではなく、人口の少ないところの企業がいろいろ創意工夫して、より広い世界で成功するための方法を生み出している」として、
今後押さえるべきビジネス環境と対策についていろいろお話していただきました。
その中で、今後の超円安状況を踏まえて“日本の強みを活かした”「きめ細やかな心遣いで生まれた・・日本の料理やお酒やその他食べもの等」を(最新の冷凍技術なども使って)海外に輸出する絶好のチャンス、と言ったお話があり、とても元気づけられました。

一方、大会最後の高岡浩三氏のお話では、はじめに日本の産業の凋落ぶりを数値的な裏づけを持って、
ここまでひどいか、と言うまでの言い方で強調されていました。
例えば、1990年の世界の時価総額のトップ20社のうち、トップがNTTで、17社、全体の70%が日本企業だったそうです。
それが30年後2020年では、トップ20社に日本企業はゼロ。なんと50社でもゼロ。(その後トヨタが30数番目にはいったそうです。)
一方賃金は、30年間で米国60%アップ、ドイツ50%、韓国80%。それに対して日本はゼロ。
結果、韓国の賃金より日本の賃金が下がってしまっている、と言う現実になっています。
惨憺たる結果ですが、今後求められるのはマーケティングの革新。
最新のマーケティングの定義では、「顧客の問題解決によりもたらされる付加価値を創出するプロセスとその活動」とのことで、
かのコトラー教授と高岡様で考えられた内容だそうです。
言葉は難しいですが、売上競争ではなく、「付加価値」を高めること。
そのための新たなビジネスプロセスまで設計して、実際の活動を行うこと。
私なりに解釈するなら、「より高く売れる、お客様に喜ばれる商品サービスを創造し、それが効率効果的に提供出来て、
循環して回っていけるよう、そのプロセスと仕組みまで作ること」と思います。
そのためには、市場調査で分かるような、すでにお客様がわかっている問題の解決ではなく、
イノベーションすなわち顧客がまだ問題を意識していないことを見つけ出し、その解決の手段を考えることが大事とのことです。
そして問題解決の思考プロセスとして、
①顧客は誰か
②その顧客の新しい現実はどうなっているか
③その新しい現実下で抱える顧客の問題は何か
④その問題の解決方法は何か?
と言うステップで整理するのだそうです。とても実戦的な方法論と思いました。

そして「日本ネスレのアンバサダー制度の成功実例」がとても面白く、参考になりました。
コーヒーの市場分析で、まず、
①コーヒーを自分たちで入れて飲まれる人達を対象に考えた
②現在は、個人あるいは核家族化と共稼ぎで、家庭内で食事をする機会がどんどん無くなっている。コーヒーも自宅で入れて飲むことはほとんど無くなっている。
③そうなると、コーヒーは職場で飲むことが多くなるが、実際は缶コーヒーぐらいしか飲めないことになっている
④そのため、職場でもおいしくコーヒーが飲める簡便な仕組みがあればいいのではないか!
と言う発想から、職場でおいしいコーヒーを飲んでもらえる仕組みとして、「アンバサダー制度」を考えたそうです。
山川裕正氏 コラム5画像5職場にネスレのコーヒーマシンを無料で置いてもらい、
職場の人が責任者として主体になって仲間のためにコーヒーを簡単に入れてあげる仕組みです。
はじめ札幌で始めたところ、計画以上の反響があり、それも誰もやめない。
2年間で利用する人が50万人以上(アンバサダー登録者は16万人以上。現在は40万人以上)になったそうです。
それでなぜ無料奉仕のアンバサダーを誰もやめないかと思っていたら、
「毎朝、コーヒーを入れてみんなに喜んでもらえることが嬉しい」と言う回答を得たそうです。
「職場のコミュニティ」に奉仕できる仕事であり、まさに「自己実現型」の喜びをアンバサダーの人達に与えているからだ、とわかったということです。
そのようなこともあり、高岡さんが社長になってから、日本ネスレの業績は、海外と比べても大きく飛躍できたとのことでした。

問題解決の発想も興味深いですが、それ以上に、プロジェクトを始めた意図を超えた大きな意義価値のある仕組みであったからこそ、
大きな成功に結び付いた、と言うことが、とても興味深いと思いました。
私は、今の資本主義の世界においては、あまりに商品サービスがあふれており、
かつその一方的な売り込みに多くの人達が疲弊しているのではないかと思っています。
もっと言うと、自分のアイデンティティが喪失する危機をどこか感じていて、
何かの場面で自己の主体性を確認したいという衝動を多くの人達が抱えているのではないか、と思えるのです。
ですから、これからの企業活動においては、単なる企業の都合ではなく、お客様を中心に据え、
お客様の主体性をより発揮できるようなサービスなり仕組みがとても大事だし、有効になってきていると思えます。
山川裕正氏 コラム5画像6お客様のファン化をより進めるということも一つですが、一歩さらに進んで「お客様と一緒に『お客様満足』を作り上げる」仕組みを作り上げると言う発想を取り入れたいと思います。商品開発をお客様と一緒に行う、と言う事例は最近良く聞きますが、それ以上に、この「ネスカフェ アンバサダー制度」と言うのは、その典型的な事例と思えた次第です。

と言うことで、今回はこれくらいにしておきましょう。
次回も、今夏の大会の感想を続けたいと思います。次回は、ベンチャー精神旺盛な若手女性経営者のお話をしたいと思っています。ご期待願います。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

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