2022年6月9日

第135回(2022.1)全国経営者大会の感想②

・藻谷ゆかり氏の講演「六方よしの経営、既存事業と地域を活性化する」について

◎はじめに

前回は、基調講演である楠木建氏のお話について述べました。藻谷 ゆかり氏 お写真
今回は、分科会の藻谷ゆかり氏の講演内容について述べたいと思います。
私はこれからの日本経済が再生していくためには、今一度日本独自の強みを見直し立て直していくことが必要と思っています。
そう考えるとグローバルな大企業以上に各地域に根差した中堅中小企業の活躍が大事であり、
地方の活性化が絶対条件と思えるのです。
そして実際、そうした各地域の中堅中小企業の成功事例には、
地元地域の強みを活かすという視点と共に、新しい時代へ向けた独自な視点での創意工夫がかならず入っていて、
それは他の多くの中堅中小企業にとっても、これからのビジネスの重要なヒントになると思います。
そんな地方企業の成功事例を生な形でお聞きでいるのではないかと思えたのが、
この分科会を選んだ一番の理由です。

【藻谷ゆかり氏の講演「六方よしの経営、既存事業と地域を活性化する」について】

「六方よし経営」とは、近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」に、
作り手よし、地球よし、未来よし」を加えた6つの「和のSDGs」を表しているそうです。

但し、「三方よし」と言うネーミングは、実は1984年にでてきたそうで、
そこには「株主」は入っていないとのこと。
株主資本主義は、人類の課題であり、
あまりに「お金を払う人の力が強くなりすぎて・・今だけ、自分だけ、お金だけ」になっている。
それは株主の問題だけでなく、消費者ハラスメント、会社や上司からのハラスメント等、
社会全体に大きな歪みを及ぼしているのではないか・・・、とおっしゃったことは、強烈に胸に響きました。
私はその時、この「今だけ、自分だけ、お金だけ」という3つのキーワードこそ、
日本経済の停滞がつづいている最大の原因を簡潔に表している、と思えたのですが、
しかしあとから振り返って、「だからこそ逆転の発想で、
・今だけ⇒未来の理想を描いて、
・自分だけ⇒周りの人やみんなのため、社会の幸せのため、(みんなを巻き込み・・)
・お金だけ⇒理想を実現するために知恵を絞って、ワクワク楽しく、トライアンドエラーしていく
・・と考えればいい、そう考えれば日本の未来には希望があふれているんだ!」と思えてきて、
むしろ元気をいただいた感じになりました。

実は、藻谷氏の写真の印象からはのんびり田舎風のお嬢様然とした方かな、なんて思っていたのですが、
そのスカッとした物言いや論理的でスマート、とてもクリアーなお話ぶりに、意思が強くかつ超頭のきれる方と思いました。
履歴からは東大、ハーバードビジネススクールMBA取得、途中金融機関に勤務だったそうですから、確かにスーパーエリートの方と言えるでしょう。
そうしたスーパーエリートの方が、会社を興し売却したうえ、2018年に家族5人で長野県北御牧村に移住し、
「地方移住×起業×事業継承」をテーマに活動されているとのこと。
夫は国際エコノミストの藻谷俊介氏で、例の「里山資本主義」の藻谷浩介氏は義理の弟だそうです。
そんなスーパーエリートが実際に日本の地方(田舎)に住んでビジネス活動をされているわけですから、
それだけ日本の地方の魅力はすごい、ということになるわけで、藻谷氏のそうした経緯や思いをもっと聞きたいな、と思えたくらいです。
と、また講演者の印象に話がいってしまいましたので、講演内容に戻りましょう。

<数馬酒造さんの事例>

やはり事例がとても面白かったのですが、はじめに挙げていただいたのが事業継承された数馬酒造さんのお話です。
現在の社長さんは父親から24歳で事業継承したのですが、その時点では売上4億円で借金も4億あったそうです。
はっきり言って、絶望的にも見える状況にあったわけですが、事業再生に成功して、今では地域に根差した優良企業に変身されているとのこと。
藻谷氏のお話から、その成功ポイントを私なりに整理してみました。
なにより事業再生のスタートとして、兼業していた卸業を辞めて自社製造に集中したことが大きいでしょう。

そのことで売上は4億から3億に減少したそうですが、赤字体質から脱却できたそうです。
業績不振企業が再生するためには、今一度自社の強みをしっかり見極め直し、そこに集中化することが
必要です。あわせて、強みを発揮できていない事業や活動の見切りも大事になります。
当たり前かもしれませんが、当事者になると、なかなかできないものでしょう。
先代社長から若い息子さんにスパッと委譲されたことが、何より重要だったと思います。
再生したポイントと言うか、事業として徹底したことは次の通り。

1)地元能登に徹底的にこだわっていること。経営理念も「能登を醸す!」
・能登地元でドーム5個分の耕作地でお酒米をつくり、100%地元米のお酒造りを貫徹。
(よほどねばり強い意志が無いと、できないことと思います。)
結果として、地元と外の販売比率が、3対7へ。
・新製品で「能登産の梅や柚子を使ったお酒」なども開発。能登産を強調したオリジナルな複数の
食品群をPR。

2)地元の有休資産(土地や施設)を有効活用していること。
・耕作放棄地を仮受け、条件の悪いところでは大豆、小麦をつくり、しょうゆ醸造も継続。
・廃園した保育園を醤油の醸造施設として利用。廃業したワイナリーをリキュール酒作りに転用。

3)若手社員の(過去の常識にとらわれない)活用を進めたこと。
・杜氏に辞められたこともあり、若手社員に任せる「一人酒樽の責任醸造」制を導入。
(とても革新的なしくみと思いますが、いろいろ試行錯誤が必要だったと思います。
リスクを取った強い決断のもと、必ず成功させるという強い意思が
社長さんや任された若手社員さんにあったということでしょう。)

4)デジタルな機器も積極的に活用していること。
・スマホで醸造状況を管理するシステムも導入して、デジタル化も進めた。
その結果、ワークライフバランスも推進出来ている。

上記4点は、これからのビジネスの成功ポイントとして、多くの企業に当てはまることと思います。
ちなみにこの社長さんは「地域の課題を解決することが、経営のめざすところ」とおっしゃっているそうです。
その心意気が、心に響きます。やる気ある若い社員さんが集まって、明るく頑張っている姿が目に浮かびました。
その他の事例もいくつか紹介していただきましたが、書面の関係上省略します。ご興味ある方は、藻谷氏の書籍をご覧になって下さい。
私も購入して拝読し、とても勉強になりました。息子にも読むように言っています。

<「六方よしの経営」を実現するストーリーと中身について>

それで大事なことは、その「六方よしの経営」を実現するストーリーとその中身です。
藻谷氏のこだわるストーリーは次の通りです。

なにより越境学習によって(従来の境界を越えて、新たな視点や知恵が加わることで)、
新たな価値を発見する。つまり地域の良さ、自分たちの良さの再発見である。
そしてその価値の発見からフェアトレード(人権)、つまり「売り手よし、買い手よし、作り手よし」というお互いを尊重し協力し合うことで
お互いにハッピーになっていく関係作りと、
地産地承(環境)即ち、「世間よし、地球よし、未来よし」というより大きな価値へと広げていくこと。
それが「六方よし」なんだとのことです。

あげていただいた事例の話ともピッタリあい、とても説得力がありました。皆さんの経営にも取り入れていただけたらと思いました。

<「あるをつくす」ことの大事さについて>

最後に、心に残ったお話を挙げたいと思います。

キリンビールの長野県のポスターには、「あるをつくして!」というキャッチコピーが大きく打ち出されています。
長野県では、宴会の中締めで「あるをつくして下さい!」と言うそうです。「お皿に残った料理をすべて食べつくして下さい」ということだそうですが、そのことの深い意味を受けっとったキリンビールの社員さんが作ったポスターとのことです。
単にもったいないを超えて・・今ある「あるもの」をどれだけ真剣に受け止め、その価値を活かそうとしているかが大事、と言うこと。地域の良さや自社の強みこだわりがまさにそうでしょう。
従業員についても、どれだけ「あるをつくしているか」。一人一人の良さを徹底的に活かし、伸ばそうとしているか。そうした「あるをつくす」姿勢があるからこそ、新たな価値も創造できる、と藻谷氏は強調されていました。

その他、いろいろ勉強になり、まだまだお伝えしたいことはありますが、今回はこのくらいにしましょう。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)