―日本製鉄、橋本会長のお話から、超大企業トップの“腹の据わった不退転の覚悟”を受け取りました!―
~ 今春 全国経営者大会講演への感想として①―1【前編】~
はじめに
今大会のタイトルは「2025年 分断か共生か!? 転換点に立つ世界と日本」でした。
世界及び日本社会の構造転換が、様々な場面で実際の動きとして表れてきているよう感じます。
今すぐにでも新たな未来へ向けた実行を進めていくべき、という世間での論調があふれる中、
今大会の講演をお聞きして、さらに大事なことに気が付きました。
それは「普遍的な視点から『本当に大事なことは何か』を見極め、不退転の覚悟で決断する。
その上で、様々な障害を前提に(予測し)、粛々と物事を進めていけるようにする」と言うことです。
その気づきを特に強く与えていただいたのは、今大会の基調講演、日本製鉄の橋本会長のお話です。
そこで、そのお話からはじめたいと思います。
《基調講演》“過去を否定する”大改革の進め方
「崖っぷち」の大赤字から僅か2年でV字回復を実現
橋本 英二 氏 (日本製鉄㈱ 代表取締役会長 CEO)
現在、ニュースで大きな話題になっているUSスチール買収において、毅然とした態度で強い姿勢を見せている、
“時の人”とも言える橋本会長が登壇。買収に関しては、後半で少し触れただけで、日本製鉄を(2年で)再生させたお話が大半でした。
そのお話しぶりから、橋本会長の強い志と共に“腹の据わった不退転の覚悟”を感じさせていただきました。
そうした橋本会長の意志と思いの強さを強く感じたのは、ご本人の言葉を直接、生な状態で受けとめたからと思います。
ご講演のはじめに
講演冊子の解説では「過去最大の赤字から、僅か2年でV字回復を実現」とあり、
そのことについて、はじめに次のようなお話がありました。
「やったことは、ごく当たり前のこと。鉄の持つ付加価値を最大限に広げる。
そのため、(自社のビジネスプロセスでは)これまで“製造”に集中していたが、原料調達や加工、商社(販売)機能を新たに拡大していった。」
「人口縮小する日本の国内市場では限界があってグローバルに収益基盤を広げる必要があると思い、
そのことを実行していった。実際(当社では)国内製鉄事業が最も低迷していたので、固定費削減によって、損益分岐点を4割下げた。」
それから、改革の要諦として次の6つが挙げられ、その一つ一つについて説明していただきました。
①危機に対する、正しい理解(そして2年以内に結果を出す・・)
②改革はすべて上から!!
③リーダーシップのあり方の議論は不要! 何より結果を出すことが一番。
④内外共に、納得させられるシナリオと、シンプルなKPI
⑤「大儀はあるか」
⑥(社員との)直接対話と成果還元
①危機に対する、正しい理解(そして2年以内に結果を出す・・)
「(当社をとりまく)重要な環境変化として、なにより中国の鉄鋼生産の急拡大によって、
世界生産の二分の一を中国が押さえてしまう状況に陥ったこと。その結果、原料価格が高騰する一方で、
鉄鋼価格の決定権を中国が握ってしまうだけでなく、過剰生産によって価格の下落が起こっていること・・が挙げられる。
それに対して、(社内では)『個別案件のリスク』を恐れて、チャレンジしない体質が蔓延していたし、
それによる人材力の低下、企業体質の弱体化も起こっていた。・・但し、このことは日本全体に当てはまる事でもあるだろう。」
比較的サラっとおっしゃっていましたが、ご自身なりに現状の危機を明確に認識されていたのが、よく伝わってきました。
経営者が大きな改革(変革)の決断をする際には、外部環境と自社内部のズレから発生している危機の現状を、
経営者自身が大きな視野をもって事前に冷静に整理してとらえておくこと。そのことがとても重要とあらためて思います。
このように危機の状況を明確に認識されていたことが、
橋本会長の、その後の改革へ向けた強い信念の礎となったことが、よくわかりました。
また「このことは日本全体にあてはまること」と言うお言葉には、思わずうなずいてしまいました。
多くの経営者が「危機を正しく理解」できていなかった。
また『個別案件のリスク』を恐れて、抜本対策を打てないままになっていた。
そのことが、日本のビジネスが世界に大きく立ち遅れてしまった根本原因の一つであることは間違いないでしょう。
「危機に対する正しい理解」が大事ということは、中堅、中小企業の経営者の皆さんにも当てはまると思います。
「外部環境(の大きな変化)」と「自社の状況(強み弱み・課題)」を把握した、
強い信念持った改革へ導く「危機感の醸成」が大事と、あらためて思います。
それから次のようなお話がありました。
「(抜本)改革は、2年が限度であり、3~4年の期間を掛けると、疲れと遠心力がかかることは容易に想像できた。
しかしそれ以上に、自社の状況から、そもそも時間が無かった。だからはっきり覚悟しやすかった・・。」
そこで考えられた具体的な対策として、一つ目は生産設備の選択と集中、その上での合理化。
二つ目は取引先大手企業との「値上げ交渉」でした。このことは「2年以内に結果を出す」ことを絶対条件として、
すぐに効果が出る対策と言うことで選択したそうです。数値的には、前者は高く売れる商品の構成を上げること。
後者は現在の商品の利益率を上げることになります。
但し、「生産設備の選択集中の効果が実際に大きくあらわれるのは5~6年後であり、時間が間に合わない」。
そこで「短期的には、『値上げ交渉』をより集中して行った」とおっしゃっていました。
②改革はすべて上から!!
実際日本製鉄の業績V字回復を成し遂げられたのは、
トヨタ等の大手顧客企業との値上げ交渉を成功させたことが大きな要因の一つとして挙げられるでしょう。
当時私はその新聞記事を読んだ際、「こんな簡単に値上げが通る話なのか?」と思ったのが、正直なところです。
しかし実際には、かなり用意周到に準備し体制を組んでいたようです。
「今回の交渉において決め手になるのは、『大儀』。そのためまずは身を切る構造改革を先に行い、
その覚悟を示して、交渉に臨むことにした。例えば役員数の削減等・・」
「改革のための『特別委員会』を作らず、既存ラインで実行を進めた。」
その上で「製造と営業の見直しでの大括り化。さらに原料調達と営業の一本化による『マージンコントロール』の実現。
具体的には、原料調達と営業の両部門の責任を副社長に集中させ、その上で、社長直結で都度営業部長と打合せ、
(橋本会長直属で、トヨタなどの超大手企業との)マージン交渉を推進した」とのことです。
『マージンコントロール』という現場レベルでの改革を日本製鉄と言う巨大企業で進めることの大変さを思うと、
そこに橋本会長の「何が何でも成功させる!」と言う強い意志を感じます。
実際、橋本会長が直接価格交渉に関わる事で、商談に成功したケースが多かったのではないかと想像します。
後編へ続く
文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏
(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)
講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)