2025年3月11日

日本製鉄 橋本会長のご講演【後編】―超大企業トップの“腹の据わった不退転の覚悟”を受け取りました!―(今春 全国経営者大会講演への感想として①―2)

―日本製鉄、橋本会長のお話から、超大企業トップの“腹の据わった不退転の覚悟”を受け取りました!―

~ 今春 全国経営者大会講演への感想として①―2【後編】~

前編はこちら
 

③リーダーシップのあり方の議論は不要! 何より結果を出すことが一番。

それからリーダーシップについては、次のようにおっしゃっています。
「良い結果を出すリーダーが、(社員にとっての)良いリーダー」
「世間でいろいろ言われているリーダーシップのあり方の議論は不要。
(トップは)全責任担うので、自分の性格に合ったやり方で進めるのが一番!」
この言い方には、まさに橋本会長の性格が如実に現れているよう思います。
これくらいの強い自己への自信と信念が無ければ、(利害関係の錯綜や周囲の人達への配慮など、様々
な障害が予測される)巨大企業の改革を進めていくことはできないだろう、とも思いました。

一方で、中堅・中小企業であるなら、ニュアンスはかなり違うかなとも感じました。
中堅中小企業の社長であれば、多くの場合絶対的な権力を持っており、自分の思うように意思決定して部下達に命令することは可能です。
また現場まで見えている社長なら、現場の隅々まで仕事の仕方を変えさせることも可能でしょう。
しかし問題は、実際に改革を推進するにあたって、部下の人達がどれだけその改革を心から受け入れ、
その実行に「自分事」として取り組んでくれるか?ということ。社長一人が一生懸命になっても、社員がついてこなければ、
その改革はむしろ社内の不協和音を高めて、失敗に終わることも十分あり得ます。
如何に社員達にその改革を受け入れてもらえるかどうか、そこに最大限の配慮が社長には必要になるということです。
但し、そのためにも社長の先頭に立つ覚悟がなにより大事なことは、もちろんです。

また「自分の性格に合ったやり方で進めるのが一番!」と言うお言葉はまさにその通りですが、だからこそ、
1)自分の性格に合ったリーダーシップのあり方は、どんなものなのか?
2)そのリーダーシップの強み、弱みは、何か。
3)その強み弱みに合わせて、どんな対策が必要になるか。
(特に、自分の弱みを補強するための、“腹心”の育成と、役割分担は重要)
が大事ということは、挙げておきたいと思います。

 

④内外共に、納得させられるシナリオと、シンプルなKPI

このことについては、次のようなお話でした。
「合理化だけでは、企業再生は不可能。縮小均衡なんてありえず、それでは人材の低下を招き衰退しかない。
故に成長戦略が不可欠で、会社は何を目指すのか、を示すことが求められる。
そこで『世界一になる!!』と宣言した。その目的を基準に“選択と集中”を進めた。
またそのことで、挑戦できる人材力を高めていくことにした。」
「一方、3~5年の中期計画は不要。中期計画では、言い訳が許容され実害がある。
毎年の勝負に賭けることが大事。 そこで(事業全体の)KPIは『損益分岐点(の水準)』のみ。
鉄鋼業の性格から、それが一番ふさわしい。四半期でも、どのくらいの環境悪化にどれくらい耐えられるか、
その数値を見ていれば判断がつき、早期に対策が打てる。」
このお話を聞いていて、トップの実務としてビジョン(目指す姿)の提示と、
現状を把握するわかりやすいKPIの設定がどれだけ大事か、あらためて思いました。
中期経営計画の策定は、高度成長期からバブル時代に多くの日本企業に定着した業績計画の手法ですが、
最近ではその見直しの機運が出てきているようです。橋本会長がおっしゃるように、
現実と乖離した計画を立てて、未達になっても環境変化を言い訳に責任を問われない、
という風潮が出てしまっている企業も実際多いかも知れません。
このお話をお聞きして、自社のこれまでの経営計画の作り方を今一度抜本的に見直すことが必要、
という会社が決して少なくないだろうと思いました。
また、KPIを唯一「損益分岐点」にする、という話は、今回はじめて聞きました。
私も固定費が大きくかつ粗利益率の変動が大きい企業の「経営診断」で、「損益分岐点分析」を取り入れたことはありますが、
最近において「損益分岐点」が話題になることは少なくなっているよう思います。
そんな中、日本製鉄と言う巨大企業のKPIを唯一「損益分岐点」にすることには、
世間の常識にとらわれない橋本会長の独創的な発想と言うか性格を感じます。

 

⑤「大儀はあるか」

『大儀』の大事さは先程の「値上げ交渉」のお話でも挙げられていましたが、
USスチールの買収交渉においても、何より大事と思われていることがよくわかりました。
「アメリカの鉄鋼業は関税を上げただけでは絶対回復できない。
なぜなら、アメリカ国内に新技術が無いし、核になる部品を作っている会社もないから。」
「また、USスチールは国防とは全く関係ない。国防品をUSスチールは一つも作っていない。
今アメリカは自国で軍艦を造れない。弾丸も簡単に作れない(から、ウクライナにも弾丸を送れないことになっている)。」
「いま中国が全世界の二分の一を占めている中、このままでは(アメリカの鉄鋼業が)立ち至らなくなるのは明白。」
「出るところに出て、勝負する!!」とのことです。
アメリカ等西欧の産業基盤の衰退については、前回大会でのエマニュエル・トッド氏の講演でも強調されていましたが、
やはりそういうことなんだ、と思えた次第です。
「出るところに出て、勝負する!!」と言う言い方に、大いなる希望を感じて本当に元気づけられました。

 

⑥(社員との)直接対話と成果還元

「なぜその道しかないのかを自分の言葉で、表現を変えて、何度も繰り返す。」
「それだけに、現場にはわかりやすい成果還元が必要になる。そのため、
『まわりの人達より高い給与』
『まわりの人達に自分の会社を知ってもらって、自慢できること』
を考えた。後者のために“川口春奈”さんをCMに使った。
彼女は若い人たちのお母さんに好感度が高いから決めた。
(就職活動では、お母さんの意見が大きいだろうと思えたので、そのことも重視した。)」
とおっしゃっていました。
たしかに、CMの効果を考えるのは、消費者向けビジネスだけでなく生産財メーカーにとってもとても大事であり、
社長がそうした場面で最終責任を持っていること。また橋本会長がその内容にとても関心を持っていて、
現場の人達やそれぞれの人達の気持ちを、実感をもって真剣に考えておられる事もわかりました。
トップは、「大儀と情」「大局と細部」いずれも大事!だということだと思います。

 

講演を振り返って

今回のお話は、超巨大企業の事業再生がテーマと言うことになりますが、決して抽象的な一般論ではありませんでした。
大きな危機を迎えている“生々しい”現実を、トップとして真正面からとらえ、自らの強い意思によって、
その危機をようやく乗り越えられてこられた、その人だけが語れる内容と思います。
会社を大改革するための、トップとしてのあるべき姿を明確に語っていただいて、とても刺激を受けました。
特に(繰り返しになりますが)橋本会長の、意図して自らの覚悟を表に出され、自らを奮起させて、
皆を巻き込みながら、大きな成果を上げるために行動されている姿が、とても印象的で心に残った次第です。
大変ありがとうございました。
 
文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)

講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)