2023年11月28日

銚子電鉄社長:竹本 勝紀氏、その他、印象に残った講演内容として

銚子電鉄社長:竹本 勝紀氏、その他、印象に残った講演内容として

~第138回(2023.7)全国経営者大会の感想③-2~
(前編はこちら
講演タイトル:
【銚子電気鉄道 代表取締役 竹本 勝紀氏
タイトル:決して諦めない!!奇跡の復活―崖っぷちの挑戦 小さなローカル鉄道に学ぶ驚異の生き残り戦略】

◎銚子電気鉄道の竹本社長のお話

次は銚子電気鉄道の竹本社長のお話を挙げたいと思います。
銚子電鉄も、テレビなどで何度も話題となっていたようですが、私は詳しいことはあまり知りませんでした。
お話をお聞きして、とても感銘を受けた次第です。
特に、何度も襲ったまさに崖っぷちの危機を乗り越えて、生き残って頑張っているお話には、
本当に感動と共に、大いなる学びをいただけたよう思います。
主な危機を挙げると、次のようになるでしょう。
一番目の危機:親会社の地元工務店が800億円負債を抱えて倒産(平成10年)
二番目の危機:社長の業務上横領事件の発生。そのことによる補助金の支給停止(平成16年~)
三番目の危機:大震災による大損害とその後の脱線事故の発生(平成23年~)

一番目の危機

最初の危機は、ある社員がたまたま(銚子=醤油と)思いついていろいろ失敗しながら開発したぬれ煎餅を、
あらためて大々的に売り出すことで乗り越えたそうです。
線路わきにある本社隣の空き地に、ぬれ煎餅工場を作って本格的に売り出した。
そしたら山田邦子さんのテレビ放映もあって、第一次ぬれ煎餅ブームが到来し、
最盛期は鉄道収入が1.2億のところ、ぬれ煎餅の売上が2億になった。
鉄道会社が、実際は「ぬれ煎餅屋」になっていた、とのことで、笑い話のような本当の話です。

二番目の危機

それから、次の危機は社長の業務上の横領事件です。
そのことで資金がひっ迫し、平成19年には国の検査を受ける200万円の費用もままならず
倒産寸前までいってしまった。
まさにその3日前、社員がホームページでその窮状を切々と訴え、
ぬれ煎餅のネット購入の支援をお願いしたところ、
なんと10,000件以上の注文が一気に入ってきて、その窮地を脱することが出来たそうです。
実際に、あまりに多い注文量に、最後に発送させていただいたのは、6カ月後だったとのこと。
まさに奇跡と言える話で、その話は、テレビでも再現ドラマとして放映されました。
この講演では、その再現ドラマを流していただき、
実は私もちょっと、ウルルとしてしまいました。
こういうお話は、ほんと心が温かくなり嬉しいですね。

三番目の危機

それから三番目の危機については、震災後預金残高がなんと50万円までになり、その上脱線事故。
まさに窮地ですが、その際地元の高校生が、クラウドファンディングで資金を集めてくれたことがとても大きく、
他からの資金集めもあって、本格的な復旧を早急に進めることが出来た、とのことです。
地元の高校生が、一企業のためにクラウドファンディングを立ち上げる、なんて聞いたことが無いですよね。
ほんと素晴らしいと思います。
地元の人達から、銚子電鉄がいかに親しまれ頼りにされているか、よくわかる逸話と思います。

こうやって振り返ると、いずれも大変な危機でよく乗り越えらえたなと思える訳ですが、
社員の自由奔放なアイディアを存分に活かす風土や、
地元の人達からの熱い支持があってこその奇跡だと思えます。
こうした社員や地元の皆さんとの暖かく深い関係性こそが、
いざという時の会社の救ってくれる、その実例として、とても感銘を受けた次第です。

現在の銚子電鉄

そして現在の銚子電鉄は、「乗って楽しい日本一のエンタメ鉄道を目指す」を掲げて、
「世界初!?の『お化け屋敷電車』(お化け屋敷業者とコラボ)
「イルミネーション電車」
「(地元)岩下食品とのコラボ車輛」
等の、従来の鉄道会社の発想を超えた新しい取り組みをどんどん実行に移している、とのことです。

お話をお聞きして、数々の危機を乗り越えてきたことが、
銚子電鉄のオリジナリティをなにより鍛え上げているよう思いました。
また、何より明るく楽しく、皆さんが自分事として自社の事業に取り組んでおられる姿がイメージ出来て、
本当に元気と勇気をいただきました。心より感謝致します。

◎その他、印象に残った講演として、・・・日本の半導体産業の最新事情、他

日本の半導体分野の最新事情について

それから今大会では、日本の最新の半導体産業や政策の解説として、3つのカリキュラムが編成されており、
とても勉強になりました。
①《講演》半導体と共に歩んだ私の経営哲学 ラピダス取締役会長 東 哲郎氏
②《徹底討論》日本の半導体復活への勝機と課題  東 哲郎氏×泉谷 渉氏
③《まとめ&提言》日本製造業の未来戦略 産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉氏

半導体についての話題は、新聞・テレビ・雑誌等に日々掲載されていて、
経済分野では最もホットなテーマの一つと言っていいでしょう。
しかしそれだけ重要なテーマでありながら、
私には半導体と言う最先端精密部品が目の前にあるわけではないし、
先端技術への見識も乏しいからか、どこか実感が持てない、と言うか、何が一番大事なことなのか、
自分ではきちんと判断出来ていない、というのが正直なところです。
そんなド素人の私にとって、泉谷氏のご講演はとてもありがたく、いつも多くの学びをいただいています。
今回の講演は3部形式と言うこともあり、半導体と言うテーマについて、
より深く考えさせていただくきっかけになりました。
とても大事なことをいろいろお話していただいたのですが、私が思った重要な点は次のことです。

①半導体が、まさにすべての政治経済の中心テーマになってきたこと。
・自動車産業が250~300兆円規模に縮小。一方、半導体産業は460兆円。
今後20年で、3000兆円規模の投資が予測されている。
・国家戦略として、量子コンピューターとAIが絶対条件になってきた。
そのためには、半導体の技術は自国で確保する必要がある。
②一方で、半導体産業がゲームチェンジの大きな転換点を迎えていること。
そして、それが日本にとって逆転の大いなるチャンスになること。
・一つは、米国と中国の政治的覇権争い。そのことで、日本の立ち位置がとても大きな意味を持ってきた。
米国は中国との対抗で、日本と本格的に連携していくことを決断した(よう思える)。
・今まで半導体はスマホ・クラウド中心の中央制御のシステムだったが、
これからはその他の多くの機器に搭載され、自律分散制御のシステムが広がっていく。
そうなると、エッジコンピューティングの時代になっていく。
(この分野は、ロボット技術など工場の現場が主な対象となり、日本が圧倒的に強い。
海外はまだ手がついていない状況である。)
③日本国内での大型半導体工場への投資は、今後の日本にとってとても重要な意味をもってくること。
・半導体開発と製造、及び製造関連機器の開発、そして半導体を使う機器類の開発が地理的に近く、
同じ国内にあることが重要。日本の装置産業に与える影響も大きいはず。
(日本の半導体産業が弱体化したのは、日本の家電業界が国際競争に負けてしまったことも
大きな原因の一つ、とのことです。)
・国内半導体製造工場への(TSMC、ラピダス等の)巨大投資は、
それだけで終わらず、さらにさまざまな投資を誘発しており、
地域経済の活性化や産業全体の活性化に大きな影響を与えることは間違いないだろう。
・今回のラピダスへの政府の出資は、政府の本気の取り組みを表しており、
今後もさらなる投資がされてくるはずである。

最後に、お二人の対談で、次のようなこともおっしゃっていました。
「・・人集めに関して、確かに高い給与も必要だが、
それ以上に、若い人たちに是非半導体業界に行きたい、と思ってもらうことが何より大事と思っている。
半導体が何に使われ、人類にどんな貢献をするのかを明らかにして、
そうした素晴らしい夢を若い人たちに与えられるようにしていきたい。
(若者に元気がない、などと言われているが、・・・それは、我々大人が若者に夢を与えられていないから。)
夢を若者に与えるのは、すべて我々中高年である大人の責任である! 」

「本当にそうなんだ」と思うと同時に、
日本の半導体産業の再生に賭ける、お二人の熱い思いが伝わってきて、
日本の未来に対して希望が湧いてきました。ありがとうございました。

◎その他のご講演について

基調講演では、AI研究の新井 紀子氏のお話があり、
「今後バックオフィスの大半の人がAIに置き換わるだろう」と言う衝撃的なお話があり、
その上で「人間として大事なのは、意味がわかること。意味が解って文章を読んでいるかが問われる。
そして、その内容を実際のリアルな現場や社会とつながって考えることが出来るか、まで問われることになる。
(ところが、現実には文章を正確に読む訓練さえされていない人があまりに多い)」
「自学自習できる能力が何より大事になってくる」と言ったお話でした。

また、第一日目の第3講では、「DXで実現する『豊かな生き方/働き方』」と言うタイトルで、
日本マイクロソフトの業務執行役員であられる西脇 資哲氏のご講演がありました。
マイクロソフトでは、この3年で25,000人採用しており、全体では16万人の社員がいるので、
全体では六分の一近くが、知らない人同士になっている、とのこと。
この数字だけでもすごいですが、それだけに、
「自分と相手がいるだけで、そこにダイバーシティ(多様性)がある」
「マイノリティを感じている人がマジョリティなんだ」と言う発想で、組織運営に取り組んでいるそうです。
また、そうした多様性を持った組織を、DXを通してインクルージョン(融和、統合)を図っているとのこと。
お話の中でハッとしたのが、クイックレスポンス。
「反応によって得られる一体感」があって、何よりすぐに反応があると安心できるとのこと。
だからメールの中身を見なくとも、まずはその場で受け取ったという反応が大事とのことです。
確かにそうだな、と思いました。
いつも近くに誰かがいてくれる、と言う感覚が大事なんだろうと思います。
また本人の生の姿を見せなくとも、アバターを使って会話することも、
社内の仲間同士でやっているそうで、それも十分ありだなと思いました。
それからとても驚いたのは、
この講演の最中に西脇様が簡単な提案書をゼロからたった数分で作成してしまったことです。
もし例えば同じ提案書をアシスタントに手作業で作ってもらったら、
半日以上の工数がかかると思いました。
確かに先ほどの新井氏のおっしゃるように、
「バックオフィスのメンバーの大半がAIに置き換わる」と言うのが、
本当に起こりつつこととして、現実味をもって実感出来た次第です。

私は、
人間のすばらしさは、身体的な感覚と連動した心を持って、
自在に想像しさらには創造できること。
そしてそのことを一人ではなく、みんなで協力し合って成し遂げていけること、

にあると思っています。
AIはあくまで道具。それを活用するのは、人間次第。
一方で、
便利になり楽になればなるほど、
人間の生き物としての能力は確実に劣化していく、

ことは間違いない、とも思っています。
AIやメタバースと言ったデジタル技術がどんどん進んでいけばいくほど、
「人間の本質は何か」が問われるし、
その人間を活かして、「人間だからこそ生み出せる、素晴らしいこと」を実現していける会社こそが
繁栄する時代になっていく、

と私には思える次第です。

と言うことで、今回も大変学びの多い大会でした。大会関係者の皆様には厚く御礼申し上げます。

以上

文責:株式会社CBC総研 山川裕正氏

(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)

講師SELECT 山川裕正氏 プロフィール(講演依頼サイトの講師SELECTにとびます)